ぱらいそ 今日マチ子

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今日マチ子のぱらいそ。COCOONの次に読む。本当はアノネ、を先に読むべきなのだけれど、入手できなかったので仕方がない。

戦争モノ。戦時下、教会の絵画教室ぱらいそに通う少女ユーカリには罪があった。窃盗。そして彼女はずっと食事をとらずにいる。初潮が始まって以来。黒に染まり切ってしまわないように彼女は白さを、そして白さを突き抜けて透明を追い求める。

 

はじめ、ユーカリは無色透明だった。彼女の右手は窃盗をやめられず黒く染まり出しているが、まだ染まり切っているわけではない。初潮が始まったことで彼女は否応なく女性という色に染め上げられていくが、それも食事をとらないことでなんとか先延ばしにしている。そして彼女は右手を白くしようと、よきものにしようと渇望し、友人の白絵具を盗み、ポケットに入れる。

この白絵具をもっていると、そして彼女が絵葉書に絵を描いていると、彼女の右手は盗まなくなる。彼女の右手は白くなり、そうして彼女自身も全き白になる。彼女は今や完全な白になり、よきものになり、自らの内から黒を追放したのだ。

しかし人は完全な白にとどまり続けることはできない。どれほど生理に抵抗しようとしても、否応なしに女性的なものへと変化していってしまうように(生理への嫌悪感、自分が他の人間を産めるようになるという紛れもない身体的な事実に対する、言いようもない不安、嫌悪、拒絶については、どうしても川上未映子の『乳と卵』を想起してしまう)。白への、純白への潔癖なまでの(しかしそれは十分に理解しうる)希求は爆弾に変わる。そして爆弾は爆発する。

爆弾が爆発した後には黒しか残らない。焼け野原、瓦礫になった市街地。ユーカリはそこへ白絵具を置いてくる。彼女の白さは失われ、黒が戻ってくる。黒を拒絶していたはずの彼女はしかし、少し生きた心地を取り戻す。

彼女は黒に染まった。とはいうものの、完全な白にとどまり続けるのが不可能なように、完全な黒に染まり切ってしまうこともまたありえない。人は時にそのどちらかに振り切れることこそあれど、振り切れたまま凝固してしまうことはない。白と黒、その2つの色は徐々に混じり合い、灰色へと変化していく。その混じり合いはおそらくスムーズに進行するようなものではなく、大小の反発があちこちで勃発するだろう。それは嵐、あるいは戦争のようなもの。しかしその戦争を抜けた後に待っているのは新しい灰色のユーカリであり、残されているのはそれを生きることだ。白いものも黒いものも全て抱えて。

そしてその白と黒の割合は、生きるなかで折に触れて変動しながら、各々の灰色をつくりあげていく。